が、その驚きは彼の心に余韻を残さなかった。 彼は芸術品を見る目が養えるほど豊かな環境で育ったわ
けでもなく、もしそんな環境で育ったとしても芸術を嗜めるほどの性格にはならなかっただろう。 テリ
ーが探しているのは酒場だった。 冷たいビール一杯と丸々した子豚の丸焼きが目の前にあれば、それで
満足できそうな気がした。
テリーは数歩で女神像の存在すら忘れてしまった。 彼の興味をひいたのは、所々で目にする警備兵たち
だった。 テリーは武器がきっちり固定されているかを調べた。 みすみす警備兵の目を引く必要はないだ
ろう。彼は自分と似たような格好をしている人々が向かうほうへと足を運んだ。 幸いにも彼らは酒場へ
と向かっていた。 酒場の扉を開くと同時に凄まじい騒がしさが耳を、脂ぎった食べ物の匂いとツンとす
る酒の匂いが鼻を、入り乱れる人々の光景が目を一度に刺激した。
「へい、らっしゃい!」 にぼしのように痩せた赤毛の少年が他の客のオーダーを運びながら叫んだ。 テ
リーは唾をごくりと飲んで、空席を探した。 「合い席になっちゃいますけど、よろしいですか?」
赤毛の額と鼻の頭には玉の汗が光っていた。 テリーはすぐさま頷いた。 赤毛は女ドワーフ一人と男ヒュ
ーマン二人が座っている場所にテリーを座らせた。 同席の了解すら得ずに。 見た感じその三人もこの場
で合い席になったようだ。