男は深く煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
煙草のかすかな明かりでは、その表情を読み取ることはできなかった。
顔の大部分は古びた厚手のフードに隠れて見えず、男の背後には深い闇があるだけだった。
男は自分を吟遊詩人だと言ったが、その声は太くしわがれていて、誰ひとりとしてその話を信じる者はなかった。
また、危険に満ちた森の中をたったひとりで旅してきたというのも疑わしく思われた。
男は「物語を聞かせるから、食べものを分け、たき火にあたらせてくれないか」と言った。
この旅人を寒い森へと追い立てるようなことはできず、男の話を聞くことにした。
たき火のそばでくつろぎながら、それでも武器は手放さずに、男が話し始めるの待った。
その夜は凍てつくように寒く、ようやく煙草を吸い終えた男が話し始めると、その低く太い声は静かに山の彼方
へと運ばれていくのだった。