別途お伝えしているとおり,セガの新作オンラインアクションRPG「ファンタシースターオンライン2」(以下,PSO2)の「キャラクタークリエイト体験版」(以下,PSO2CC)が公開された。
PSO2CCを使うと,PSO2における大きな魅力の1つであるキャラクター作成をオフラインで行え,作成したキャラクターは,クローズドβテスト(や,大きな問題がない限り,オープンβテスト,そして正式サービス)で使えるようになるということで,さっそく作り始めているという人も多いのではないだろうか。
さて,そんなPSO2CCだが,実のところ本アプリケーションには,「動作検証」という形でベンチマークモードが用意されている。用意されている以上は,動かしてみるほかないだろう。
幸いにも筆者の手元にはけっこうな数のグラフィックスカードが揃っている。そこで今回は「基準動作環境として2005年のハイクラスGPU『GeForce 7800 GT』以上が要求される」という,PSO2が要求する低めのスペック水準を考慮して,PSO2CCが公開された2012年4月5日時点の実勢価格が2万円を下回る現行グラフィックスカードを15枚ピックアップ。これらで実際にPSO2CCのベンチマークモードを動かしてみることにした。なお,2万円というのは,オンラインゲームを主にプレイするような人達の予算感を総合的に勘案したものであり,ひとまず,限られた時間のなかでテスト対象を絞った結果と考えてもらえれば幸いだ。
2部構成になるPSO2CCのベンチモード
スコアは5000以上で「快適」
テストに先立って,PSO2CCに用意されたベンチマークモードがどんなものなのか簡単に紹介しておこう。
ベンチマークモードは2部構成になっており,前半は,「多くのモンスターが配置された市街地を,ヒューマンとニューマン,キャストの3キャラクターが走り抜ける」というシークエンスだ。最後,大型のモンスターが登場したところで終了するが,登場するモンスターが多かったり,天候条件が雨になっていたりといった理由で,描画負荷は比較的高い。
ベンチマークモードの前半シークエンスより
一方,後半は「先ほどの3キャラクターが仲間とともに森の中を移動してシップへ荷物を届け,そしてシップが飛び立っていく」というシークエンス。前半とは打って変わって,生い茂る樹木などの背景描画がメインとなっている。
ベンチマークモードの後半シークエンス
PSO2CCのベンチマークモードでは,この2シークエンスを通して1つのスコアが算出されるようになっている。セガの示す指標によれば,スコアが5000を超えていればPSO2の快適な動作が期待でき,逆に2000を割るような場合はグラフィックス設定を下げるなどの対策が必要になるとのことだ。
ベンチマーク結果の画面。「快適に動作すると思われます」「標準的な動作が見込めます」「処理負荷によっては動作が重くなります」といったメッセージが,スコアに即して表示される
グラフィックスカード15製品に加えAPUもテスト
CPUを変更した条件でも検証
テスト環境は表のとおり。前述したように,2012年4月5日時点の実勢価格が2万円以下のグラフィックスカードを用意し,それを4コア8スレッド仕様となるSandy Bridge世代のCPU「Core i7-2600K/3.4GHz」(以下,i7-2600K)と組み合わせることになる。
※そのまま掲載すると縦に長くなりすぎるため,グラフィックスカード表記を簡略化した縮小版を掲載しました。画像をクリックすると別ウインドウで完全版を表示します。なお,Radeon HD 6700シリーズはATI Radeon HD 5700シリーズのリネーム品であることから,今回はRadeon HD 6750の代わりにATI Radeon HD 5750カードを用いています
表に,背景色を加えた項目がいくつかあることに気づいたと思うが,これらは,追加テストに用いた機材として,メインの機材と区別した結果だ。
今回のテストにあたっては,グラフィックスカードの検証とは別に,「PSO2CCのベンチマークモードにおいて,GPUとCPUのどちらがよりスコアを左右しやすいのか」をチェックすべく,i7-2600Kと同じSandy Bridge世代の2コア4スレッドCPU「Core i3-2100/2.93GHz」(以下,i3-2100)と,2008年のデュアルコアCPUである「Core 2 Duo E8600/3.33GHz」(以下,E8600),そしてAMDのAPU「A8-3870K/3.0GHz」(以下,A8-3870K)を用意した。背景色を加えているのは,それらの関連項目と考えてもらえれば幸いだ。
なお,これらのテストにあたっては,GPU側がボトルネックとなるのを避けるべく,「GeForce GTX 560 Ti」(以下,GTX 560 Ti)を組み合わせるが,A8-3870Kでは,グラフィックスカードを差した状態ではなく,「Radeon HD 6550D」というブランド名が与えられた統合型GPUでもテストを行う(※i7-2600Kでも統合型グラフィックス機能を用いたテストを行いたかったのだが,今回のテスト環境ではPSO2CCのベンチマークモードを実行すると画面に何も表示されなくなる問題が生じたため,今回はテスト対象から外した)。
PSO2CCランチャーの「環境設定」から,グラフィックス設定は行える
PSO2CC側のグラフィックス設定は,「描画」タブから「テクスチャ解像度」を「高解像度」に変更。ウインドウモードでは予期しない外的要因によりスコアがブレてしまう可能性があるため,フルスクリーン表示でテストを行うことになる。ただし,「簡易設定」の項目はデフォルトの「3」に留め置いている。
ちなみにPSO2CCの場合,フルスクリーン表示時のゲーム画面解像度は接続されるディスプレイのネイティブ解像度で決まる,今回は解像度1920×1080ドットのディスプレイを出力デバイスとして用意したので,テスト解像度は1920×1080ドットというわけだ。
今回はテスト環境の統一を重視してグラフィックス設定を行った
※お詫びと訂正
初出時,「「簡易描画設定」を最も大きな「5」に指定し」とありましたが,今回設定しているのは「描画」タブと「画面」タブでした。お詫びして訂正いたします。なお,本件に関する考察を記事の最後に加えました。
PSO2CCのベンチマークスコアは前述のとおり整数で得られるが,これだけではいまひとつピンと来ない人も多いと思われるため,今回は「Fraps」(Version 3.4.7)で,PSO2CCベンチマークモード実行中の平均フレームレートと最小フレームレートも取得することにした。
テストは3回連続で実行し,総合スコア,フレームレートとも,キャッシュなどの影響を排除すべく1回めのスコアを捨て,後ろ2回の平均値を採用する。
以下,文中とグラフ中とも,グラフィックスカードは「GeForce」「Radeon」を省略したGPU名で表記するので,この点もあらかじめお断りしておきたい。
GPU性能に大きく依存する総合スコア
CPUは2コアあれば十分か
さて,まずは総合スコアをまとめたグラフ1を見ていこう。第1グループを形成するのはGTX 560 TiとGTX 560,HD 6870の3製品。少し離れてHD 6850とHD 7770までが「快適」のラインとなる5000を超えてきた。
一方,HD 7770と,その次にスコアの高いGTX 550 Tiとの間にあるスコア差は大きい。現在一般的な1920×1080ドット解像度ののディスプレイでフルスクリーン表示を行う場合は,GeForceならGTX 560以上,RadeonならHD 7770以上が必要ということになりそうだ。スコアが2000~4999までの間に入っているGPUは,たとえばウインドウモードの1280×720ドットといったところを選ぶことで,快適か,それに近いレベルでプレイできるようになるのではなかろうか。
なお,HD 6670以下はさすがに厳しい。A8-3870Kは統合型グラフィックスでのテストとなり,単体グラフィックスカードを差していないにしては善戦しているものの,やや苦しい印象は拭えないところだ。
グラフ1の状況における平均と最小のフレームレートをまとめたものがグラフ2で,平均フレームレートは概ね総合スコアどおりに並んでいる。
「快適」のラインである総合スコア5000を超えるGPUだと,平均フレームレートは80fps以上。スコア3000台のGTX 550 TiやHD 7750,HD 6770も平均60fpsを超えてきているので,平均フレームレートだけで判断するなら,このあたりでも十分快適にプレイできるのではなかろうか。
興味深いのは最小フレームレートで,平均フレームレートでGTX 560 Tiに置いて行かれるHD 6870のほうが約8fpsも高かったり,平均フレームレートではGTX 560に約16fps離されるHD 6850が逆転していたりと,総じてRadeon勢のほうが高く出ている。4Gamerでは再三にわたってDirectX 9世代のアプリケーションを前にするとGeForce 500&400シリーズよりもRadeon HD 6000&5000シリーズのほうが優位だと繰り返してきたが,PSO2CCを前にしても,やはりその傾向が出たということなのだろう。
PSO2CCのベンチマークモード実行時におけるシステム全体の消費電力を,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」から計測した結果がグラフ3だ。ここでは,ベンチマークテスト実行中に示された最も高い消費電力をスコアとしている。
A8-3870Kはマザーボードなどシステムがまったく異なるので参考値となる点は注意してほしいが,それでも,GTX 560 TiとGTX 560は,性能も消費電力も高い結果になっているのが分かる。古いPCで,グラフィックスカードだけ差し替えるような場合は,電源ユニットへの配慮が必要になるかもしれない。
一方,HD 6850とHD 7770はグラフ1,2のスコアからすると消費電力が低い。PCI Express補助電源コネクタが1系統で済む――GTX 560 TiとGTX 560,HD 6870は2系統必要だ――こともあり,アップグレードのしやすさという観点ではアドバンテージになりそうだ。
CPUの違いはベンチマークスコアにどの程度の影響を及ぼすのか。前述のとおりGPUをGTX 560 Tiで揃えつつ,CPU 4製品の違いを見た結果がグラフ4である。
i3-2100では「Intel Hyper-Threading Technology」(以下,HTT)の有効/無効を切り替えて,2コア4スレッド動作だけでなく2コア2スレッドでも検証しているが,2008年のCPUであるE8600で若干スコアを落としたほかは,CPUによる違いがほとんど出なかった。
ウインドウモードでのテスト実行中にタスクマネージャを追ったところ
Process Explorer実行結果。PSO2CCのベンチマークモードでスレッドは57本立ち上がったが,主要なものは3スレッド。そのうちの1つがメインスレッドになっているようだった
Windows上で走っているスレッドの数をチェックできる「Process Explorer」を用意して,PSO2CCのベンチマークモード実行時の様子をチェックしてみると,大きなスレッドが3つ走っているようだが,それでもi7-2600Kに対する負荷はその中で一番大きなスレッドでも10~20%程度。残る2スレッドのうち1つは走ったり走らなかったりなので,i3-2100でHTTを無効化した状態でもスコアが落ちなかったのは,おそらくそのあたりが理由だろう。
ではなぜE8600でスコアが下がったかだが,i3-2100とE8600ではメモリコントローラが統合されているかいないかという部分をはじめ,アーキテクチャ的な差異が大きい。そのあたりがスコアに影響したと考えるのが妥当ではなかろうか。
さて,最後にグラフ5は,念のためグラフ4の時点におけるフレームレートを比較したところ。興味深いのは,Sandy Bridge世代のCPUでコア数やスレッド数にかかわらず最低フレームレートが揃う一方,E8600ではざっと13fps程度落ち,A8-3870Kではさらに下がっている点だ。サンプルが少ないので理由までははっきりしないが,A8-3870Kでは,システムに何らかのボトルネックが生じ,それが最低フレームレートを押し下げたものと思われる。
PSO2で快適なプレイを求めるのであれば
CPUよりGPUにコストをかけたい
とにかく掲載スケジュールを優先したため,今回は1920×1080ドット時のみのスコアとなるが,それでも,PSO2の快適さを決める要因がほぼGPU側にあるとはいえそうだ。
CPUは,最新世代で,かつ動作クロックが3GHz程度あるならデュアルコアモデルでも十分。なので,「予算と相談しつつPSO2プレイ環境を構築していく場合,まずはグラフィックスカードのアップグレードを検討すべき」ということになるはずである。
■PSO2CCでは影の設定がスコアを大きく左右する?
(4月6日16:15頃追記)
上でお詫びと訂正を加えたとおり,今回は「描画設定」タブをデフォルト値である「3」のままテストしている。これは5日16:00のPSO2CC公開後,とにかく掲載スケジュールを優先し,ざっと設定を行ってテストを開始したためだ。
「簡易設定」タブには「簡易描画設定」を切り替えるスライダーがあり,説明によると「描画機能のレベルを総合的に変更」するものだそうだが,いったいこれは何だろうか。記事の掲載後に調べてみたところ,ヒントは,同じ「環境設定」タブにある「設定内容書き出し/読み込み」機能に隠されていた。
「設定内容書き出し/読み込み」にある[設定内容書き出し]ボタンを押すと,
\\(ユーザー名)\マイ ドキュメント\SEGA\PHANTASYSTARONLINE2
に,「pso2_spec_log_benchmark.txt」というファイルが書き出される。そして,このファイルは[設定内容読み込み]ボタンから選択して,「環境設定」ウインドウ下部の[設定を保存]ボタンを押すことで反映できるのだが,このファイルでは,アンチエイリアシングなど,「環境設定」ウインドウには表示されていないグラフィックス設定を個別に変更可能になっているのだ。
試しに「Antialiasing」の項目を「true」から「false」に変えてみると,確かにアンチエイリアシングの有効無効を切り替えることができた。
「Antialiasing」の「true」設定時(左)と「false」設定時(右)。はっきりと違いが分かる
それを踏まえ,今回は,本稿と同じ「簡易描画設定:3」と,最大グラフィックス設定である「簡易描画設定:5」を比較してみたのだが,結論から言うと,両者では設定内容が細かく異なる。なので,PSO2CCで最高画質を狙いたい場合は,まず「簡易描画設定」のスライダーを一番右の5へ設定するところから始めることになるだろう。
ちなみに,いろいろ調べてみると,スコアを大きく左右する設定項目は,「pso2_spec_log_benchmark.txt」に用意された「ShadowQuality」のようだった。「簡易描画設定:3」だとShadowQualityは3,「簡易描画設定:5」だとShadowQualityも5にそれぞれ設定されるのだが,「簡易描画設定」を本文と同じ3に設定しつつ,ShadowQualityだけ3と5で比較したものがグラフ6だ。ご覧のとおり,ベンチマークシークエンスの全編にわたって,ShadowQualityを5にしたときのほうがスコアは落ちている。
用いたGPUはGTX 560 Ti。基本的なテスト構成は本文に準じる
その違いを示したのが下のスクリーンショットだ。たしかにShadowQualityを5にしたときのほうがシーン全体に落ちる影は自然になるが,キャラクターの見た目に変化は生じないようだ。なので,スコアが低すぎる環境なら,「簡易描画設定」を5にしつつ,ShadowQualityの設定だけ自己責任で下げてみるというのはアリかもしれない。
いずれも左がShadowQuality 3,右が5のスクリーンショット。建物に落ちる影の描写が異なる一方,キャラクターの見栄えに変化はない気配
なお,pso2_spec_log_benchmark.txtにはそのほかにも細かな設定項目がいくつか用意されているのだが,それらがすべてベンチマークモードの画面で反映されているかどうか,画面からは判断できなかった。このあたりはβテストが始まればはっきりしてくるのではなかろうか。